2013/12/21| 七福萬来
TOWEL STORY~ギフト篇~第2話
洗い場から脱衣場に移ったユズルはすっかりのぼせていた。
というのも、女湯からの前田先生の指示が多く、しかも従わなければならなかったからだ。
「次は髪を洗うのよ。」
「泡が残らないようにしっかりと流してね。」
「次は湯船に肩までつかるの。」
「つかった?・・じゃあ今度は先生と一緒に歌を歌おう。歌が終わるまで出ちゃだめだよ。」
他の客もいてユズルはとても恥ずかしかったが、まんざら嫌な気持ちにならなかったのは、銭湯内の笑い声に救われからだけでなく、自分のことを構ってくれたことがうれしかったからだ。
「じゃあもう出てもいいわ。ちゃんと体拭くのよ。」
脱衣場に戻り、湯上げ(バスタオル)を手に取り頭からかぶった。
ユズルは湯上げ(バスタオル)を使ったことがなかったので、すごく贅沢な気持ちになった。
その湯上げ(バスタオル)はとてもやわらかく、そしていい匂いがした。
ずっと湯上げ(バスタオル)にくるまれていたいぐらい心地よい気分になり、やはり構ってれたうれしさもあった。
用意してくれた少し大きめの下着は新しかったが、ちゃんと洗濯をしてくれていた。しかもマジックで”ユズル”と名前を書いてくれていた。
「そろそろ出るよ~。いい?」
向こう側の脱衣所から前田先生の声がした。
「うん。いいよ。」
銭湯からは先生とほぼ同時に出た。
「あ~!ユズル君ちゃんと拭いてないなぁ!」
前田先生は、洗面器の中から自分が使った湯上げ(バスタオル)を取り出し広げると、ユズルの頭からかぶせ、両手で頭をゴシゴシと拭きはじめた。
ユズルの頭は先生の両手に挟まれ、左右前後に振られた。
そして二人とも声を出して笑った。
・・・お母さんみたい・・・
ユズルは先生に会ったことも、声も聞いたこともない母をかぶせていた。
湯上げ(バスタオル)からの匂いはお母さんだった。
つづく・・。
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